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◆第3回桜文大賞
●桜文大賞
大鐘稔彦/兵庫県

 そんな辺鄙な所で独り暮らすなんて、絶対長続きしないよ……父さんが淡路島南端の漁村にある小さな診療所に赴任すると聞くや、響子、お前はすかさずそう言ったよね。その一言を聞いた時、ほろ苦いものが父さんの胸をよぎったよ。三十年執ってきたメスを捨て、よりによってなぜ過疎の地へ赴こうとしているのか。ああ、大学生のこの娘にもまだまだ判って貰えないな、そう悟ったね。
 それにしても、赴任した時期が悪かった。新年早々の真冬時、海面を吹き来る西風がゴーゴーと海鳴りを呼び、陽が落ちれば町は闇に覆われ静まり返る。何と侘しい所へ来たものかと、正直思ったよ。その度に、長続きしないよ、というお前の言葉が蘇った。だが、さしも長き冬が過ぎた時、父さんは目を瞠った。山々に桜が所狭しとばかり咲き誇ったのだ。ようこそここへ、と言ってくれているよいうに。ああこれを響子に見せたい、でもまあ来年でもいいか、て父さんはほくそ笑んだものさ。
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