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◆第1回桜文大賞
●桜文・優秀賞(一般の部)
・桜のネックレス/貫目佳子 広島県・三九才・主婦

  拝啓 ゆかりちゃん  お変りありませんか、わたしは元気です。今日桜橋の近くを通り、ゆかりちゃんのことを思い出しました。三月初旬、桜の開花にはもう少し間があるようです。
  桜の枝を透かしての青空、思わず知らず、わたしは首をだるそうに回しました。 「母さん、ネックレスが重いの?」
  傍らを行く娘に言われて、はっとしました。久々のおしゃれのつもりではめたネックレスに、肩を凝らせてしまったのです。 「そうみたいね、羽のように軽いネックレスがあればいいのに」
  笑いながら言って、「あったわ」わたしはひとりつぶやきました。幼なじみのゆかりちゃん。あなたとツクツク、針で刺して糸につなげたネックレス。風とおなじに軽い、桜の花びらのネックレス。
  四月になったら遊びにきませんか。桜橋でもう一度、桜のネックレスを作りませんか。


・消えた「夜桜」/ 原口登志子 神奈川県・六三才・無職

  お母さん、あの桜が忽然と姿を消してから、もう五十年になります。でも私の中で、桜はまだ咲き続けております。切ないほどの感謝の念を年輪に刻み付けながら…。あれは、刺繍糸で彩られた夜桜でした。光沢のある繻子の黒地に、満開の桜が映えていました。
  「お母ちゃんの大事なお友達の形見なの。だから、この疎開先まで持って来たのよ」仮住まいの六畳間に、高々とその「夜桜」の額を飾ってお母さんはそう言いました。子供心に、その大事さを共有した気持ちでした。それなのに、あっけなく「夜桜」は無くなっていました。昭和二十二年、戦後初めての遠足があった時です。「皆は、おにぎりだって、お米の…」屈託なく告げた私の一言が、お母さんに哀しい決断をさせたのですね。
  ずっと後に、農家のミッちゃんの家であの「夜桜」を見ました。その時、潮風を受けながら頬張ったあの日のおにぎりに変身したのだと悟ったのです。桜の季節の度に、切なく甦る一こまです。


・もう一度始めませんか/阿部  緑 福島県・四九才

  貴男に手紙を書くなんて何年ぶりでしょうね。今年も又、桜の季節がやって来ました。桜が咲き始めると浮き浮きするのは私だけでしょうか……。
  私達はいつから会話をしなくなったのでしょうね。夫婦としての会話、男と女としての会話、人間としての会話。そのいずれの会話も私達は交わしていませんよね。
  昔、十五年前、貴男の自転車の後ろに乗って夜桜を見に行った事がありましたね。あの時私達は幸福でした。ライトに浮かぶ桜に立ちつくしていた二人でしたね。あの日が頂点だったのでしょうか……。少しずつ、何かが壊れいつのまにか最小限度の話しかしなくなりましたよね。このまま老いていくのでは淋しすぎますよね。もう一度、あの頃に戻って始めてみませんか。桜の下であの日の様に……。

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